安全保障 核兵器をなくすことこそ

 高市政権は国家安全保障戦略など「安保三文書」の改定作業を進めている。与党である自民・維新からの提言と、政府の有識者会議からの提言が今後出て、政府が年末までに決定する。聞こえてくるのは、長射程ミサイルの配備や弾薬庫の整備、「継戦能力の確保」などといった、戦争をすることを前提とした議論ばかりだ。
 核兵器をなくす日本キャンペーンは3月、市民からの提言をまとめた。「核兵器をなくす--それが日本の安全保障」と題し、①核抑止のリスクを直視し「核軍縮は安全保障の手段」と位置づける、②「非核三原則の堅持」こそが日本の安全を守る、③「核兵器の非人道性の普及」が日本への核使用のリスクを下げる、④「東アジアの軍縮対話」で日本にとっての核の脅威を削減する、との4つの提言を出し、すでに与野党各党に提出している。
 軍拡ではなく軍縮・核廃絶こそ真の安全への道だ。国会での真摯な議論を期待したい。

軍縮・不拡散 NPT再検討会議成功を

 ロシアのウクライナ侵略、米国のイラン攻撃など核兵器国の横暴が続く中、NPT再検討会議が始まった。国際法秩序を取り戻し軍縮を進められるか。日本のNGO連絡会は5つの要求を掲げている。
 第1に、核兵器の非人道性を再確認すること。第2に、過去の約束を守り核軍縮を進めること。とりわけ新START失効後の米ロ交渉、そして中国を巻き込んだ軍縮対話が重要だ。第3に、核実験に反対すること。トランプ米大統領は核実験再開を語っており、警戒が必要だ。第4に、核不拡散を強化すること。欧州では「核共有」の強化や「核持ち込み」を進める動きがある。これらは事実上の核拡散になる。日本国内の核共有論や核武装論も同様に問題だ。だからこそ政府が非核三原則の堅持を掲げる意義は大きい。第5に、核兵器禁止条約を含む核軍縮の国際構造を強めること。NPT再検討会議を成功させ、11月の核禁条約再検討会議につなげたい。

イラン攻撃 外交的解決めざせ

 2月28日、米国とイスラエルはイラン攻撃を開始した。イランの核開発を理由に掲げているが、核問題の外交交渉が続いていた中での突然の先制攻撃だ。最高指導者ハメネイ師を殺害し「体制転換」を掲げている。主権国家を軍事的に転覆する試みであり、明白な国際法違反だ。
 そもそも米国もイスラエルも核を保有している。米国はNPTの下で核廃絶義務を負っており、イスラエルは自国の核保有についての説明責任を有する。この軍事攻撃は、国際的な核不拡散体制そのものを破壊している。こんな無法がまかり通るならNPTに留まることに意味がないと考える国が出てくるだろう。
 戦争が長引けばイスラエルが核使用に踏み切る可能性もゼロではない。きわめて危険な情勢だ。
 一刻も早く事態を収束させ、核問題についてはNPTの枠組みの中で外交的解決をめざすべきだ。

核軍縮義務 唯一の多国間条約NPT

 2月5日、米ロの戦略兵器削減条約(新START)が失効し、両国間には核軍縮条約がなくなった。新STARTは、配備する戦略核やその運搬手段の上限を定めていた。ロシアは、今後も「米国が制限を超えない限り」条約の制限を守るとしている。米国は、今後は中国も巻き込んだ核軍縮でないと意味がないと主張している。
 米ロの核は各5000発以上、両国で世界の9割近くを占める。配備戦略核は、新STARTの上限1550発を少し切ったところだ。中国は、保有総数が約600で、近年増加が顕著とはいえ米ロ両国とは一桁違う。中国は、米ロがさらに削減しない限り核軍縮交渉には応じないという立場だ。まずは米ロが核軍縮を進めつつ、中国との軍縮対話の糸口を見つける必要がある。
 NPTは、核兵器国の軍縮義務を定めた唯一の多国間条約である。4月の再検討会議が重要になる。

法の支配を 帝国主義的侵略止めよ

 米軍がベネズエラを軍事攻撃しマドゥロ大統領を拘束して連行した。今後は米国が同国を運営し石油も管理するとトランプ大統領は公言している。国連憲章で定められた諸国民の自決権、主権平等、紛争の平和的解決、武力の使用・威嚇の禁止といった諸原則に違反する、帝国主義的侵略といわざるをえない。
 マドゥロ政権は独裁や人権侵害が批判されてきた。だからといって他国が武力で政権を転覆してよいはずがない。そんなことが認められれば世界は無秩序となってしまう。
 ピースボートはこれまでベネズエラを何度も訪問してきた。今回暫定大統領に就任したロドリゲス氏は、外相だった15年に被爆者一行を温かく歓迎してくれている。核廃絶への国家的関心は高い。
 核武装した軍事大国による他国への侵略がくり返されている。これを止め、「法の支配」を回復し強化しなければならない。

生存への道 核の非人道性を基礎に

 2026年をどのような年にすべきか。昨年は、被団協ノーベル平和賞と被爆80年で、核の非人道性を改めて語り伝える一年だった。今年はそれを、法と政治に反映させる年にしたい。NPTと核兵器禁止条約の再検討会議が、それぞれ4月と11月に開かれるからである。
 NPT再検討会議では「核兵器がもたらす壊滅的な非人道的被害」の再確認を何としても各国に求めたい。そのうえで核兵器国は核戦争をしないと誓約し、核軍拡ではなく核廃絶への約束の誠実に履行を表明すべきである。核実験再開など言語道断だ。
 核禁条約においては、発効後5年で広がった支持を力にして、非人道兵器たる核兵器をあらゆる防衛・安保政策から排除する流れを作りたい。それこそが、厳しい国際情勢の中における真の安全と生存への道だということを、常識として確立していかねばならない。

実験再開? 日本は核実験反対の表明を

 10月末、トランプ米大統領が「核実験の実施」を国防総省に指示したとSNSで発表した。真意は定かでないが、核爆発実験を再開するという意味なら実に33年ぶりのこととなる。プーチン露大統領は、米国が核実験を行ったらすぐに対抗実験を行えるよう準備を命じた。中国や北朝鮮も続くだろう。
 米エネルギー長官は核爆発実験は行なわないとし、従来からの未臨界実験の継続だと示唆した。その一方で国連総会で米国は、これまで賛成していた包括的核実験禁止条約(CTBT)促進決議にただ1国反対した。トランプ政権は核実験容認へ舵を切ったのだ。90年代以降、核実験禁止の規範は広がり、今世紀に核爆発実験を行なったのは北朝鮮だけだ。この規範を米国が崩すなら、世界は新たな核開発競争に突入する。日本は「いかなる国の核実験も認めない」との明確なメッセージを発信すべきだ。

防衛力強化 日本が原潜を導入?

 9月、防衛省の有識者会議は「防衛力の抜本的強化」に関する報告書を提出し、原子力潜水艦の導入を念頭に「次世代の動力の活用の検討も含めた研究・技術開発」を提言した。長射程ミサイルを発射できるVLS(垂直発射装置)を搭載し「長距離・長期間の移動や潜航」ができる潜水艦が必要だというのだ。敵基地攻撃能力の増強を企図したものといえ、憲法9条の下での専守防衛をさらに大きく逸脱するものだ。原子力を動力とする潜水艦は、それ自体は核兵器ではないが、ウラン燃料を軍事的に利用するわけだから、原子力は平和目的に限ると定めた原子力基本法に反する。国際的な核不拡散体制への悪影響も大きい。環境汚染や事故の危険性の問題もある。
 この報告書はそれ以外にも武器輸出や軍事費のさらなる拡大を提言している。新政権がこのような危険な道に進む前に、声を上げて止める必要がある。

核戦争準備 日米政府の勝手を許すな

 日米両政府が核兵器の使用・威嚇を想定した演習を行なっていると、7月に共同通信が報じた。両政府は「拡大抑止協議」の中で米軍による核使用シナリオを議論し、昨年12月にはその手続きを定めた指針を策定したという。今年2月の机上演習では、「台湾有事」で中国が核の使用を示唆したという設定で、日本の自衛隊が米軍に核の威嚇で対抗することを再三求めたという。米軍は当初慎重だったが、最終的に同意した。
 さらにロイター通信は8月、米元当局者の話として、日本が敵基地攻撃能力として取得・配備しているミサイルが「米国の核戦力を支援する」よう議論していると報じた。22年の「安保三文書」以来加速する自衛隊の実戦準備に米国による核使用とその支援が具体的に検討されているのだ。きわめて危険な動きであり、国会で徹底追及すべきだ。核戦争の準備を勝手に進めるな。

被団協展 キノコ雲の下にいた人たち

 ピースボートは4月から、日本被団協のノーベル平和賞特別展を船内に設置し航海している。ノーベル平和センターが制作したこの展示は、広島の資料館所蔵の写真や被爆者の絵、今を生きる被爆者の肖像、今日の核の脅威や核廃絶への取り組みを紹介している。
 私は約2カ月間乗船し、寄港する各国で訪問者らにこの展示を案内した。私が対応した計数百人の反応として印象に残っているのは二つだ。一つは多くの見学者が「キノコ雲の写真は見たことがあるが、その下にいた人たちのことをこれまで想像したことはなかった」と正直に語ってくれたこと。もう一つは、案内の最後に私が「なぜ今被団協が受賞したのか。それは核がまた使われてしまうかもしれない世界情勢だからではないか」と問いかけると、皆が一様に深くうなずいていたことだ。この危機感を、さらなる行動につなげたい。

国連が調査 核戦争の影響幅広く

 7月、国連は、核戦争の影響を調査する科学パネルの21人の委員を発表した。このパネルは昨年の国連決議に基づき、核戦争が起きた場合の「物理的影響と社会にもたらす帰結」を現地、地域そして地球規模で調査する。核と放射線、大気と気候、環境、農業と生物学・生命科学、公衆保健と医療、行動科学・社会科学・応用経済学など幅広い分野から委員が選出された。
 日本からは長崎原爆病院の名誉院長で放射線影響の専門家、朝長万左男氏が選ばれた。委員は個人の資格で参加するものだが、米、英、中といった核保有国の機関に属する科学者が参加していることは注目される。9月に第1回会合が開かれ、2027年に最終報告を出す。1988年以来となる国連によるこの研究が、核戦争の破滅的影響に関する現代的知見を示し、そのような事態を起こさせない力として働くことが期待される。

核施設攻撃 日本は外交解決の主導を

 6月、イランの核施設に対してイスラエルが攻撃を行ない、両国は武力紛争状態に陥った。その後米国がイスラエルを支援し3カ所の核施設を攻撃した。イランに核兵器開発疑惑があるからだという。しかし疑惑があるから武力攻撃が許されるというなら世界は完全な無秩序に陥る。国連憲章は紛争の平和的解決を定めており、各国が武力の行使を許されるのは自衛権行使の時のみ限定的にだけだ。
 軍事施設だけを狙っても、市民が犠牲になることはある。核施設を攻撃すれば、放射能被害が出る危険がある。疑惑があるなら国際原子力機関による査察に基づき、NPTのもと外交交渉で解決すべきだ。米国のイラン攻撃は、NPT体制そのものに大きな打撃を与えた。条約からの脱退を考える国も出てくるだろう。日本政府は、イスラエルと米国の攻撃の違法性を指摘し、外交解決を主導すべきである。

NPT会議 核の壊滅的影響の認識を

 5月、NPT準備委員会は、来年の再検討会議への勧告を採択することなく閉幕した。議長による勧告案は文書として残った。しかし議論の中心は、情報公開・説明責任や、再検討会議プロセスの効率化といった手続き論だった。終末時計の針が89秒前をさし、核兵器使用の可能性がかつてなく高まっていることに対する危機意識は感じられない。
 主たる責任は核兵器国および他国の核兵器に依存している国々にある。その一つの日本は、核依存国も自国の政策に関する定期報告をすべきだという声を拒絶した。核兵器国はブロックに分かれ互いを非難し合っている。
 核が使われた場合の壊滅的な影響に対する認識を持てば、このような悠長な議論はできなくなるはずだ。来年の再検討会議では、核がもたらす人道・環境への影響に関する特別セッションを設けて、そこから議論を始めるべきではないか。

賢人会議 核抑止からの脱却へ行動を

 3月、「核兵器のない世界」に向けた国際賢人会議の最終会合が開かれ、提言が発表された。2022年に当時の岸田首相が立ち上げた専門家会議である。
 提言が掲げた「中核的な原則」には、国際法の遵守といった基本原則と並んで「全ての国は、核兵器への依存から脱却するために努力し続けなければならない」と明記された。「核抑止が安全保障の最終的な形態であるとこれまで示されたことはなく、またこれからもそうあってはならない」とも述べている。政府主催の会議が核抑止からの脱却を明確に掲げたことは重要だ。
 ただし具体的な提言は、核兵器を使わせない、あるいは増やさないといった事項に偏っており、軍縮への切り込みは甘い。
 外務省は、核抑止からの脱却はあくまで「最終形態」だと説明している。今からどんな行動を起こせるか、国会において真摯に議論すべきだ。

会議宣言 核抑止を厳しく批判

 核兵器禁止条約第3回締約国会議では「核抑止」を厳しく批判する宣言が採択された。宣言は「核抑止とは核リスクを前提としたものであり、すべての者の生存を脅かしている」と指摘し、「核兵器を持っているかどうか、核抑止政策に与しているか反対しているかにかかわらず、すべての国の安全を脅かしている」と強調している。
 日本を含め、この条約に不参加の国々は核抑止が安全保障に不可欠だという。欧州では、米新政権が信用できないから代わりに仏英が「拡大核抑止」を提供するという議論まで出ている。核抑止の評価をめぐる対立点が鮮明になってきた。
 オーストリアは核兵器がもたらす「安全保障上の懸念」に関する数十頁の報告書を出して、核抑止のリスクを丁寧に論じた。これをもって核に依存する国々とも議論をしていきたいとしている。日本でも正面から核抑止を議論すべき時だ。

締約国会議 岸田前首相の反対

 核兵器禁止条約第3回締約国会議について首相が「不参加の意向」と最初に報じたのは1月25日の読売で、その夜NHKが「代わりに与党議員を派遣する方向」と報じた。この時点で自民党内では議員を派遣する案が実際に検討されていた。
 2月4日の会見で自民党の森山幹事長は党の議員を派遣しないと明言した。この背景について共同通信や中国新聞は、首相からの検討指示を受け森山幹事長が岸田前首相と麻生元首相に意向を確認したところ、両氏とも反対だったので派遣しないとの結論に至ったという。核軍縮がライフワークと言っていた岸田前首相が党議員の派遣にも反対したとすれば重大な問題であって、本来メディアは岸田氏に公開取材を申し込むべきところだ。現首相が一歩踏み出すのを前首相が止めたという構図も醜悪であり、自民党による政策決定のあり方そのものを問わねばならない。

トランプ政権 国際ルールを壊させない

 第二次トランプ政権は核軍縮や平和にどんな影響を与えるか。軍事政策上の核兵器の役割は、拡大に向かうだろう。民主党政権では縮小、共和党では拡大という振り子である。
 一方でかつて初の米朝首脳会談を行なったように大胆な軍縮交渉に出る可能性もある。中ロとの間においてもだ。「ウクライナ戦争を終わらせてくれるのでは」という漠然とした期待が持たれているのも、彼の強力な交渉力ゆえだろう。
 私が危惧するのは、あからさまな国際ルール無視の姿勢がもたらす悪影響だ。各国が自国の利益を優先するのは当然だが、一定のルールの上でのはずである。ルールなど邪魔で無用だという外交が続けば、世界的ダメージは大きい。
 日本は「交渉に負けない」ということもあるが、より重要なのは「国際ルールを壊させない」ことだ。国際法に従う核軍縮も、その一つである。

カナダ議会 12月10日に決議

 日本被団協へのノーベル平和賞授賞式があった12月10日、カナダ議会では一本の動議が全会一致で可決された。被団協の平和賞受賞を祝福しカナダ政府に核兵器禁止条約への「関与」を求めるものだ。
 その内容は①日本被団協がノーベル平和賞を受賞したことを評価する ②被爆者が長年たゆまず、核兵器使用がもたらす壊滅的な人道上の結果についての世論喚起をしてきたことに感謝する ③彼らのメッセージは、核の脅威が差し迫った今日において重要な意味をもつ ④核軍縮は世界の平和と安全に向けて重要な措置であることを確認する ⑤政府に対し、核兵器禁止条約へのさらなる関与を含む具体的な措置をとることを奨励する。
 核兵器禁止条約への「関与」とは、オブザーバー参加を求める趣旨と解することができる。日本の国会においても、同様の国会決議を与野党で上げるべきではないか。

核戦争の研究 2年間の科学的調査

 国連総会で「核戦争の影響と科学的調査」と題する決議が採択された。核戦争の影響を研究する科学パネルを設置するという内容で、21名の委員を国連事務総長が任命する。核戦争が地域や地球にもたらす物理的・社会的影響、つまり「気候や環境への影響、放射線による影響、公衆保健、世界的社会経済システム、農業や生態系への影響」を2025年から2年間研究し、包括的な報告書を出す。
 アイルランドとニュージーランドが主導したこの決議案に第一委員会では、日本を含む144カ国が賛成した。核保有国は中国が賛成、英、仏、ロは反対、米国、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮は棄権した。NATO諸国は賛成(ノルウェーなど)と棄権(スペインなど)に割れた。
 核戦争の破滅的な影響を明らかにすることは、核兵器廃絶への推進力となる。被爆国日本は委員を出して貢献すべきである。

ノーベル賞 次の運動を準備したい

 日本被団協がノーベル平和賞を受賞したという報を受け、驚きと感慨を覚えながら7年前にICANが受賞したときのことを思い出した。当時とくに印象に残ったことの一つは、式典で読み上げられたノーベル委員会による授賞理由演説の質の高さである。核兵器禁止条約の意義を雄弁に語り、それに取り組む「全ての個人と団体を賞賛」した。今年の被団協への授賞理由演説が楽しみだ。
 ノーベル平和賞は当時、核兵器禁止条約やICANの存在についての認知を一気に世界に広げてくれた。今年の被団協の受賞によって、ヒバクシャの存在はこれまでよりも格段に世界に知れ渡ることになる。そのお話を聞き核兵器をなくすために行動しようという人の輪は必ず大きくなる。その運動の推進は、しかし、被爆者に続く世代に課せられた課題である。お祝いに終わらせることなく、次の運動を準備したい。

NGOの活躍 カザフスタンの会議

 ICANは8月にカザフスタンで核被害者フォーラムを開催するにあたり地元の2NGOの協力を得た。
 1つは国際安全保障政策センター。代表者アクメトフさんは元外交官だが「政府ではできないことをやりたい」とNGOを立ち上げた。核実験被害者を国際会議に連れてきて実情を訴えるといった活動に長年取り組んでいる。
 もう1つは、昨年発足した若者団体STOP。STは草原(ステップ)を指す。20代の彼らが会議を見事に取り仕切ってくれた。最終文書をカザフスタン政府代表に手渡す際、1人が「一言申し上げたい」とマイクをとった。そして、政府が核廃絶を国際社会に訴えているのはよいが、国内の核被害者は未だに十分な援護を受けられていない。政府はもっと被害者に寄り添うべきだと発言。これには大使もたじたじとなっていた。日本とはひと味違う民主主義の力を垣間みた。

支出総額 核兵器に9カ国で14兆円

 ICANの調べでは昨年1年間の核保有9カ国による核兵器への支出総額は914億ドル(約14兆円)。前年比で13%増加した。
 うち米国は515億ドル(7・7兆円)を支出しており、他の全ての核保有国の支出総額を超えている。第2位は中国で119億ドル第3位はロシアで83億ドルと続く。ICANがこの調査を始めた5年前に比べ、世界の核兵器支出総額は34%増えた。
 一方で世界20社の企業が核兵器の開発や維持で昨年少なくとも310億ドル(4・7兆円)を稼いだ。継続中の契約は3350億ドル(50兆円)以上あり、昨年は新規契約が79億ドル以上あった。これらの企業は政府やシンクタンクに影響力を行使している。米仏政府へのロビー活動に1・2億ドルを費やし、主要シンクタンクに6百万ドルを寄付している。核兵器ビジネスは、このように回っているのだ。

AUKUS 同盟強化、日本も参加へ

 2021年に発足した米国、イギリス、オーストラリア(豪州)3カ国の軍事同盟「AUKUS」が世界に暗い影を落としている。
 AUKUSの第一の柱は、米英による豪州への原子力潜水艦の供与だ。原潜の燃料となる高濃縮ウランを非核保有国豪州に提供するものであるため、核不拡散に反するとの懸念がNPT再検討会議で出されてきた。インドネシアなどは「軍備競争を助長」することへの懸念をくり返し表明している。
 第二の柱は、AI(人工知能)の軍事利用や極超音速ミサイルなどの「先進能力プロジェクト」で、日本の参加が決まっている。
 中国への対抗という性格が色濃いこの同盟は、正式な条約でなくパートナーシップ協定として各国の議会を通さず進められている。同盟強化で対立をあおるよりも、地域共通の安全保障をはかることに注力すべきでないか。

核軍拡 使える核兵器の増加

 冷戦終結以降、世界の核兵器の数は減ってきた。90年代前半は大幅に減り、以後は緩やかになりつつも減少は続いてきた。今年6月現在で世界の総数は1万2120発、前年より微減だ。しかし、実際に配備されている核弾頭と、配備のために貯蔵されている核弾頭を足した「現役の核弾頭」の数は9583発で、2018年からの6年間で332発(3・6%)増加している。「使える核」は増えているのだ。
 増加が顕著なのは中国、北朝鮮、インド、パキスタンである。かつては米国とロシアが世界の核の9割以上を保有していたが、今日では8割台である。核拡散が進んでいる証だ。
 イタリアでのG7サミット首脳宣言は「冷戦後の世界の核兵器の減少傾向は維持されなければならない」としているが、現実に世界は核軍拡の時代に突入している。(データは長崎大学RECNA)

人類の岐路 殺人ロボット禁止へ

 4月末、オーストリアはウィーンで自律型兵器の規制に関する国際会議を開催した。自律型兵器とは人工知能(AI)が自ら標的を探知し攻撃する兵器システムのことで「殺人ロボット」とも呼ばれる。人間の関与なしに兵器自身が殺傷を行なうことは深刻な倫理的問題をはらむことから、禁止を求める声が上げられてきた。昨年国連総会で初の決議が採択されている。
 「人類の岐路」と題した今回の会議には日本を含む144カ国が集まりNGOストップ殺人ロボットキャンペーンからも60人が参加した。議長総括は「標的の選別や生死に関わる判断を機械に任せる」ことに懸念を表明し「武力行使への政治的敷居が下がる」リスクも指摘した。会議が開かれたホーフブルク宮殿は10年前に核兵器禁止への「人道の誓約」が発せられた所だ。核禁条約に続き殺人ロボット禁止条約への動きが始まった。

事務総長提案 核軍縮へ6つの行動を

 3月、国連安保理で日本が議長として核軍縮・不拡散に関する公開会合を開いた。グテレス国連事務総長は、今日「核戦争のリスクはこの数十年で最も高くなっている」と警告し、これに反対する世界の声として、ローマ教皇、行動する若者たち、「勇気ある広島・長崎のヒバクシャ」、そして映画オッペンハイマーを例示した。
 事務総長は「軍縮こそ唯一の道だ」と訴え、6点の行動を呼びかけた。第一に、核保有国間の対話。第二に、核の脅しをやめること。第三に、核実験停止の継続。第四に、NPTの下での核軍縮の約束の実行。第五に、核保有国間での核の先制不使用の合意。第六に、米ロ新STARTや後継条約を通じた核削減である。そして「NPTと核兵器禁止条約を含む世界的な軍縮アーキテクチャ(建造物)の強化」を求めた。
 日本政府にはまずこれらの政策への支持表明を求めたい。

問題提起 映画「オッペンハイマー」

 映画「オッペンハイマー」が公開された。マンハッタン計画を主導した物理学者の生き様を描いた映画だ。広島への原爆投下に米国人が熱狂するシーンは直視するに堪えない。大量殺戮をもたらした現実に本人が悩む姿は描かれているが、その惨状はスクリーン上には全く登場しない。想像力がなければ誤解されうる映画だ。
 それでも私はこの映画を高く評価したい。核兵器と軍国主義を描いた映画だと思う。科学と政治、国家と個人、ナチズムや共産主義という「敵」の設定、男性中心社会など現代に通じるテーマが満載だ。AI兵器の登場、ガザの虐殺を止められない「民主主義国家」の矛盾、日本で高まる「国家安全保障」言説の危険性など、現代に多くの問題提起をしている。原爆によって苦しめられた人間には憤りや悔しさを感じるシーンも多いだろうが、一度は観てみることをお勧めする。

条約不参加 動かすのは国民世論

 日本が核兵器禁止条約に参加しないのは米国から圧力を受けているからではない。「米国との関係を悪化させたくない」と忖度して、政府自身が参加しないと決め込んでいるのだ。
 1月に来日したメリッサ・パークICAN事務局長は、日本の政治家らのそうした態度に触れ、こう言った。「米国はとても現実的な国で常に自国の国益で行動しています。そして他国もまたそうするものと思っています」。だから、日本が自らの国民世論を理由に核禁条約に入ると決断したら、最終的にはそれを受け入れるだろうという。米国と軍事同盟関係にあるフィリピンやタイは、核禁条約を批准した。これらの国は「批准するまでは圧力を受けたが批准してしまえば圧力はなくなった」という。パーク氏は続ける。「市民が、政府が行動せざるをえない根拠を作る必要があるのです」。

核兵器禁止 日本政府の言い訳

 「核兵器禁止条約は核兵器のない世界の出口とも言える重要な条約だが、核兵器国は1カ国も参加しておらず、いまだ出口に至る道筋は立っていない」。これが日本政府の公式見解だ。
 だが核兵器の禁止は出口ではない、入口だ。生物・化学兵器、地雷やクラスター爆弾も、まず条約で禁止したことで廃絶への道が開かれた。核兵器国が入っていないことは日本が何もしない理由にならない。核兵器国はお互い、相手が持っているからこちらも持つのだと言い合っている。先月来日したICANのメリッサ・パーク事務局長はこれを「堂々巡りの循環論法」と批判し、悪循環を断ち切るリーダーシップが必要だと訴えた。
 中国や北朝鮮の脅威をあげて「厳しい安全保障環境」だから核抑止力が必要だとの声もある。だが逆だ。脅威があるからこそ軍縮が必要なのだ。軍拡競争は、緊張や危険をさらに高めるだけである。

締約国会議 核抑止論の危険性

 核兵器禁止条約第2回締約国会議の決定事項の中で注目されるのは「核兵器に関する安全保障上の懸念」についての協議プロセスを始めることだ。核兵器の非人道性とリスクに関する新しい科学的根拠に基づき「核兵器の存在および核抑止論」からもたらされる「安全保障上の懸念、脅威、リスク」を議論する。通常「安全保障上の懸念」というと軍拡や核保有を正当化する文脈で使われるが、核兵器や核抑止論そのものが「安全保障上の懸念」なのだという議論である。オーストリアが牽引し、2025年3月の次回締約国会議にまとめと提言を出す。
 協議は条約締約国と署名国の間で行なわれるが、赤十字やICAN、「その他の関係者や専門家」も関与する。日本政府は「賢人会議」の専門家らがこの議論に加わることを促してはどうか。核抑止に依存した安全保障がいかに危険かを客観的に論ずる好機である。

FMCT 核禁条約無視は滑稽

 9月の国連総会に合わせ、岸田首相は核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の交渉開始に向けたハイレベル会合を開いた。
 FMCTとは、核兵器目的の核分裂性物質(高濃縮ウランやプルトニウム)の生産を禁止する条約のことで、90年代から交渉が呼びかけられてきた。材料の生産が止まれば核兵器の増産はできなくなる。だが既存の物質の扱いや検証をどうするのかといった点をめぐり、議論は停滞してきた。提案から約30年が経った今も交渉開始の目途はたっていない。
 一方、やはり90年代から提案されてきた核兵器禁止条約は、2017年に採択され21年に発効した。核禁条約は核兵器の開発を禁止しているから材料物質の生産も当然に禁止している。現存する核禁条約を無視して見通しの立たないFMCTを呼びかけるという政府の姿勢は滑稽だ。

締結国会議 日本政府は参加せよ

 8月に広島で開かれた与野党国会議員の討論会で、自民党を除く全政党の代表が、核兵器禁止条約の締約国会議に日本がオブザーバー参加することを求めた。公明も維新も明確にこの立場だ。自民党の寺田稔「原爆議連」会長はオブザーバー参加の「メリットは見いだせる」としつつ、核兵器国と非核兵器国の「対立の構図」にさせないことが重要であると述べ、党内で持ち帰り議論するとした。
 岸田首相は国会質疑でオブザーバー参加を求められると「核兵器国を関与させていかねばならない」と答弁している。しかしこれは不参加の理由にならない。むしろ日本が参加することで、核兵器国と非核兵器国の溝を埋める役割を果たすことができる。昨年はドイツなどNATO4カ国とオーストラリアが参加している。日本も、米国と協議の上で参加すればよい。

核共有 NPTが崩れていく

 ロシアがベラルーシに核兵器配備を進めている。プーチン大統領は「NPTに違反しない」と主張している。
 ドイツやイタリアなどNATO5カ国には計約百発の米国の核兵器が置かれている。これはNPTに違反しないとの解釈が一般的だ。その理由の一つは、これらの核配備がNPT成立以前の1950年代に始まっていること、もう一つはこれらの核兵器は米国が管理しているとされることだ。NATOの中には、戦争が始まればNPTは無効になりこれらの国々が米国と核兵器を共同運用しても問題ないとの主張がある。
 ロシアによるベラルーシへの配備はNPT成立後初のケースとなる。管理はロシアが続けるというが、ルカシェンコ大統領は「我々の兵器だ。我々が使う」とも述べている。
 ポーランドも核共有を求め始めた。NPTが崩れつつある。

核兵器支出 9カ国で11兆円超

 6月、ICANは世界の核兵器支出報告書を発表した。核保有9カ国による昨年の支出総額は829億ドル(11兆円超)に上り、うち290億ドル以上が民間企業の収益になっている。全体の半分以上が米国のもので、その額は437億ドル。ロシアは米国の22パーセントにあたる96億ドル、中国は同27パーセントにあたる117億ドルを支出している。
 民間企業にかかる継続中の核兵器関連契約総額は2786億ドル(39兆円)で、中には今後数十年続くものもある。昨年は159億ドル(2兆円)以上の新規契約が結ばれた。これらの企業は政府へのロビー活動に、米仏2カ国だけで1・1億ドル以上(158億円)費やしている。また核保有国の主要10のシンクタンクは、政府や核兵器製造企業から2・1~3・6千万ドルを受け取っている。まさに核兵器ビジネスである。

矛盾だらけ アクション・プラン?

 G7で日本の「ヒロシマ・アクション・プラン」が支持されたと政府は自賛している。だがその内容はどうか。
 第一に「核不使用の継続」。ならばなぜ核の使用・威嚇を禁じた核兵器禁止条約に反対するのか。「先制不使用」にさえ反対しているではないか。第二に「透明性の向上」。2010年のNPT会議以降言われ続けているが、核兵器国は報告書式にすら合意できていない。第三に核の「減少傾向の維持」。イギリスは2年前に表明した核保有数上限の引き上げを撤回すべきだ。第四に原子力の平和利用の促進。日本の大量のプルトニウム保有や、福島の処理汚染水海洋放出に対する国際的懸念にどう答えるのか。第五に被爆地訪問と軍縮教育の促進。これは被爆者やNGOが長年やってきた分野だ。取り組むなら市民と協力すべきだが、政府からの打診は今のところない。

条約締結国 核兵器開発援助は禁止

 ロシア国防省は4月、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を行ない成功したと発表した。新型ミサイルの開発に向けたものだといい、米政府には事前通告をしたとしている。
 ミサイルは南部の試験場から発射され、隣国カザフスタンの試験場に置かれた標的に命中したという。カザフスタンの試験場は、これまでもロシアの実験に使われてきた。
 カザフスタンは核兵器禁止条約の締約国である。同条約は第一条で、核兵器の開発、保有、使用を禁止し、それらの行為をいかなる形であれ援助、奨励、勧誘することを禁止している(e項)。ICBMは核兵器の運搬手段であり、その実験に協力することは核兵器開発の援助にあたると考えるべきだろう。カザフスタン政府は締約国としてまずはしっかりと説明し、今後ミサイル実験に協力しないと表明すべきだ。

G7サミット 核廃絶への一歩を

 5月19日に始まるG7広島サミットは被爆地で開催される初の主要国首脳会合となる。核廃絶に向けてサミットがなすべき事項を端的に3つ挙げたい。第一に、首脳らは被爆者と会い証言を聞き、原爆資料館をしっかりと見学すべきである。第二に、首脳宣言は、核兵器のあらゆる使用がもたらす壊滅的な非人道的結末への憂慮を表明すべきである。これは過去のNPT再検討会議で合意されている表現である。核保有3カ国と核傘下4カ国の首脳が再表明することの意義は大きい。
 第三に、「核兵器のいかなる使用・威嚇も許されない」ことを明示的に表明すべきである。昨年のG20バリ宣言はこれを表明しているから、G7にもできるはずだ。ロシアの核を非難するのは当然だが、あらゆる核の使用・威嚇が許されないと確認することこそ、廃絶への第一歩となる。

敵基地攻撃 「抑止力の強化」のため?

 政府は昨年末の国家安全保障戦略で「反撃能力」と称する敵基地攻撃能力の保有を決定した。そして長射程ミサイルの購入・配備計画を進めている。
 政府は従来、ミサイルの脅威には迎撃網を強化するとしてきた。しかし今回「ミサイル防衛網だけで完全に対応することは難し」いとして「有効な反撃を加える能力」の保有を決めたというのである。
 実際にミサイル攻撃があり日本が反撃すれば、さらに相手は反撃してくるだろう。これを迎撃しきれないことは政府が認めているとおりであり、ミサイル撃ち合いの戦争になる。政府は「抑止力の強化」のためだというが、実際にしていることは、抑止が破れて戦争になった場合の戦闘能力の整備だ。それをみた相手も当然、戦闘態勢を強化するだろう。
 このような軍拡競争は止め、軍縮外交こそ進めるべきだ。

利益相反 資金提供どこから

 昨年末、パリの2人の研究者が「核兵器政策における調査資金と利益相反」と題する論文を発表した。外交政策シンクタンクの多くが、核兵器関連企業や核抑止戦略を掲げる政府から資金を得ており、こうした利害関係者からの資金が知的自由に影響を及ぼしているという内容だ。45のシンクタンクへの調査の結果として明らかにした。
 その影響とは検閲、またより多くの場合は自主規制としてみられる。とくに「議題の設定」に強い影響をもつ。ある防衛業者は、資金提供によって自社に不利となる調査結果を出さなくなることを期待していると証言した。ある政府関係者は「論争を起こしたくないなら批判者に資金提供をするのがよい方法だ」と述べた。核兵器が世界平和に必要だという学者がいたら、その人がどこからお金をもらっているのかを検証する必要があろう。

被爆者援助 国際基金設置へ

 核兵器禁止条約の第2回締約国会議が今年11月に開かれる。それに向けて具体的進展が望めるのは核被害者援助の分野だ。条約第6、7条には核兵器の使用・実験の被害者に援助を提供し核実験等により汚染された環境を修復すること、そのための国際協力を行なうことが定められている。昨年のウィーン行動計画には、国際信託基金の設立の可能性が盛り込まれている。実現には、世界中の政府と民間からの拠出が必要になる。これには人道的見地から核兵器禁止条約の未締約国であっても貢献できるはずだ。とりわけ被爆国日本は積極的に関わるべき課題だ。
 ウィーン行動計画は、核被害者援助に関するあらゆる段階で核被害地域の人々との「綿密な協議と積極的関与」を定めている。日本の被爆者や被爆医療の専門家、法律家らの積極的な取り組みが求められている。